「力加減が苦手」な子どもの謎:ボッチャの球はダメでも、箱なら投げ入れられた理由

 


「お友達を力いっぱい叩いてしまう」 「おもちゃを投げつけるように置いて壊してしまう」

発達障害(自閉スペクトラム症やADHDなど)を持つお子さんの中に、このような「力加減の難しさ」を抱えている子は少なくありません。

周りからは「乱暴な子」「わざと強くやっている」と誤解されがちですが、本人は決して悪気があってやっているわけではないのです。

では、なぜ力加減ができないのでしょうか? そこには「感覚・運動面(ハードウェア)」「認知面(ソフトウェア)」という2つの問題が、お互いに深く絡み合っています。

今回は、スポーツの「ボッチャ」を使ったある男の子の事例を交えながら、そのメカニズムと解決のヒントを紐解いていきましょう。

1. なぜ強すぎる?「感覚・運動面」のメカニズム

まずは、体の仕組み(ハードウェア)の視点です。

人間の体には、筋肉や関節の曲がり具合、どれくらい力が入っているかを感じる「固有受容覚(こゆうじゅようかく)」というセンサーが備わっています。

力加減が苦手なお子さんの多くは、このセンサーが少し「鈍い」状態にあります。 例えるなら、分厚い宇宙服やスキーグローブをはめて作業しているような感覚です。

  • 強く力を入れないと、触っている感覚が得られない

  • 脳からの指令が「0か100か(極端)」になりがちで、10や30といった微調整が苦手

そのため、本人は「そっと置いた」つもりでも、センサーが鈍いためにドスン!と強い力になってしまうのです。

2. なぜ調整できない?「認知面」のメカニズム

次に、脳内での捉え方(ソフトウェア)の視点です。

定型発達のお子さんは、「これくらいで触ると相手は痛いかな」「これくらいだと遠くまで飛ぶな」という基準を、経験からなんとなく感覚的に掴んでいきます。

しかし、発達障害を持つお子さんは、脳内で「ちょうどいいの基準(ものさし)」を作るのが苦手です。

さらに、「空間を立体的に捉えること(空間認知)」や「これをしたらどうなるかという予測」が難しいため、「どのくらいの力を出せば、目的地にぴったり届くか」を頭の中で計算しにくいという特徴があります。

3. 【事例】ボッチャの球には当てられないのに、箱には入れられた!

ここで、興味深いひとつの事例をご紹介します。

ある日、力加減が苦手な子どもたちと「ボッチャ(床の上の白い球をめがけて、自分の球を投げるゲーム)」をしました。 白い球(ジャックボール)をターゲットにすると、子どもたちはどうしても力を入れすぎてしまい、球が勢いよく通り過ぎてしまったり、あらぬ方向へ飛んでいったりして、上手くいきませんでした。

そこで、ゲームのルールを少し変えてみました。 白い球を狙うのではなく、「床に置いた大きめの箱の中に、球を投げ入れる」という課題にしたのです。

すると、どうでしょう。 先ほどまで力任せに投げていた子が、驚くほど上手に入りそうな力加減をコントロールして、フワッと箱に投げ入れることができたのです。

投げている「球」も「距離」も同じなのに、なぜ課題を変えただけで力加減ができるようになったのでしょうか?

4. 「感覚」と「認知」のパズルがカチッとハマる瞬間

この変化こそが、「感覚・運動面」と「認知面」の相互作用です。

【ボッチャの白い球(点)を狙うとき】
● 認知面:どこからどこまでが標的なのか、空間的な「境界線」が曖昧。
● 運動面:脳が力の計算(ものさし)を立てられず、センサーが暴走して「とりあえず強く投げる」となる。

  ▼ 課題を変更すると…

【箱(面・立体)を狙うとき】
● 認知面:「箱のフチの中」という明確な『視覚的・空間的な枠組み』ができる。
● 運動面:ゴールがハッキリしたことで、脳が「あそこに入れるなら、これくらいの強さだ!」と計算しやすくなり、筋肉への指令(力加減)が自動的に微調整された。

つまり、筋肉のトレーニングをしたわけでも、感覚の鈍さが急に治ったわけでもありません。 「認知(見せ方や目的)」を分かりやすく変えてあげたことで、本人が持っている「感覚・運動(力加減のセンサー)」が、初めて正しく発動できたのです。

大人が「優しく投げて!」「もっと力を抜いて!」と言葉でいくら注意しても、子どもの脳には届きません。なぜなら「優しく」の基準(認知)が分からないからです。

しかし、「あの箱の中に入れてね」と、脳が迷わないターゲット(枠組み)を用意してあげるだけで、子どもは自分自身で力をコントロールできるようになります。

結び:日常の「力加減」にも応用できること

この「感覚と認知の相互作用」は、日常のあらゆる場面に応用できます。

  • お友達を叩いてしまうなら: 「優しく触る」ではなく、「お友達の肩にある『赤いシール(目印)』を1回ポンと触る」という明確なタスクにする。

  • 鉛筆の芯を折ってしまうなら: 「弱く書いて」ではなく、下に柔らかい下敷きを敷いて「下敷きに穴が空かないように書く」という枠組みを作る。

「乱暴な子」に見えるその姿は、実は「調整が難しい世界で、基準が見つからなくて困っている姿」かもしれません。

本人の性格を責めるのではなく、脳が「これくらいだな」と計算しやすい工夫(枠組み)を、私たち大人が一緒に作っていけたら素敵ですね。

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