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4月, 2021の投稿を表示しています

重症心身障害児 無理なく関節を動かす

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  重症心身障害児の関節を無理のない方法で動かすことは、呼吸の改善や衣服の着脱などを楽にするので生活の質を向上させることにつながります。しかし、筋肉の緊張が強い場合には無理な力をいれて行うと筋肉を傷めたり最悪骨折などということもあります。 無理のない関節運動の促すためにはどういう工夫があるのでしょうか。 ①安定していて、支持基底面が広い姿勢で行う:人間は姿勢が不安定になると姿勢を保持しようとする働きが無意識に生じます。特に痙直型の子どもはそういう無意識の保持する神経反応が過剰になっている状態です。その子の神経が姿勢安定の反応を起こし過ぎないようにしましょう。座位よりは臥位で行う方が支持基底面は広くなります。さらに枕やクッションなども利用し安定した姿勢を準備しましょう。 ②呼吸が安定する姿勢をつくる:これもストレッチ前向きの準備ですが呼吸がうまくできないと、何とか呼吸をしようと筋肉に力がはいりやすくなります。楽に呼吸ができる姿勢をさがしましょう。 ③四肢のパターンを考えて動かしやすい方向から動かしてみる:最初の絵の子どもを下肢を動かすことを考えてみます。この子どもの下肢は内股で交差しています。これを運動学の用語でいうと股関節が屈曲・内転・内旋しているといいいます。この股関節を開いてあげるということは運動学用語では股関節を伸展・外転・外旋方向に動かすということになります。例えばそれを一度におこなわず外旋に少し動かし、次に外転に動かし、さらに伸展に動かすと一度に3方向合成した方向に動かすよりも負担なくできるかもしれません。 ④関節の動かす時はゆっくりとした速度で動かす:痙直型の子どもの筋肉は早くひっぱられると縮む性質が強く、ゆっくりとした伸長には伸ばされやすいという神経の特性をもっています。ゆっくりと動かしましょう。 ⑤全身の状態を見ながら動かしましょう:重症心身障害の子どもは不快でも表現が小さいかもしれません。表情・顔色なども表現としてしっかり観察すれば無理なく関節を動かすことができるかもしれません。

PTと子どもとの最初の出会い

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  子どもが乳幼児の場合の場合にPTが最初に子どもと出会うときには、子ども一人ということは少なく、お母さんと一緒ということが多いと思います。お母さんと子どもとどちらへの関わりを最初にしたらいいのでしょうか。 最初の出会いはPTも内心緊張していてしっかりと信用を得たいという気持ちもあります。特に新人の頃は緊張が強いので余裕がありません。親か子かどちらか一方だけに多くかかわってもう一方が不安のままということにならないようにしましょう。でも極端になるのは避けた方がいいと思います。PTは二人に同時に目配せをしながら状況に応じてその時二人のどちらかを主体に関わるのかの比率を決めていきましょう。 最初の出会いでするべきことは親子共に少し安心してもらうことです。本当に信頼してもらうのは先々でいいので少し安心してPTに付き合ってもらえる状況をつくることです。お母さんはお話が通じますし、経験も深いので短時間の会話で安心しやすい場合が多いと思います。(臨床に絶対はありませんのであくまでそういう場合が多いということで) 子ども自身が安心してもらうためには私は次のような手順で行っています。①子どもとお母さんの距離は近め、PTとの距離は遠めに設定します②子ども自身が遊びはじめるのを待ちます②子どもの遊びにPTが関わります③遊びの延長の中で姿勢や運動を観察評価をします④PTが子どもの身体に触れて行う評価をします

運動発達の評価

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  「運動発達は小児の理学療法をする時は基本でだからしっかり勉強するように」と就職して間もない頃に先輩からいわれまて資料をわたされました。当初とにかく丸暗記をしていたのですが、経験を経て一人の子どもの運藤発達状況を姿勢別・身体部位別に評価して他の神経学的検査や行動学的評価との関係を考察できる場合が多くなりました。 例えばその子の歴年齢が7ヵ月、腹臥位の発達は3ヵ月、背臥位の発達は6ヵ月、座位の発達は3ヵ月とするという子どもがいたとします。腹臥位と座位の発達の遅れが強くでていることわかります。筋緊張など他の評価結果と合わせるとその原因は低緊張に伴う抗重力伸展活動の弱さということがいえる子かもしれません。抗重力伸展活動高めるようなプログラムを取り入れることを考えます。 例えばその子の暦年齢7ヵ月で運動発達が腹臥位が4ヵ月、背臥位が4ヵ月であった場合に神経学的検査で下部体幹に低緊張があり、下肢に過緊張があったり、腱反射亢進があったりすCPの痙直型両麻痺のリスクを疑いますし、理学療法においては下部体幹のコントロールや下肢の運動性を向上させることをプログラムにとりいれるかもしれません。 運動の発達を姿勢別、身体部位別に熟知してくると、行動面の発達や神経学的評価と組み合わせてより有効な臨床的なアセスメントとして活用することができるようになります。 同時に標準的評価尺度が進歩してきて臨床的なアセスメントにも利用できることについては重要な観点であると思っています。興味があれば近藤の論文をお読みください。参考文献として書いておきます。 参考文献 近藤和泉:小児リハビリテーション 分野で使用する評価尺度 について:Jpn J Rehabil Med Vol. 53 No. 5 2016

脳性麻痺痙直型児 理学療法の目的や内容を家族へ説明する

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  乳幼児期のお子さんの理学療法では家族支援は大きなプログラムの柱の一つとなります。なぜその運動が有効なのか、プログラムの目的について分かり易く説明するように努めましょう。成長や発達ということを絡めて説明できるといいと思います。 例えばストレッチの目的はどう説明したらよいでしょうか。 「骨はひとりでに伸びますが、筋肉はひとりでには伸びません。関節の運動によって引っ張られる事が大切です。痙性のある子は関節の運動が生じにくいのでストレッチは大切ですよ。」 子どもが一人でソファーにつかまって立ち始めました。でもその際に足の指がグーのように曲がっていることをお母さんは心配しています。お母さんの心配していることに対して理学療法士がどのような戦略を立ててあたろうとしているのかを簡単に説明できるとよいと思います。 「足の指がグーになるのは沢山力のいる動作では一層なりやすい傾向があります。立ち上がり動作の時は沢山脚の力が必要です。まず力のあまり力のいらない真っすぐつかまって立っている中で脚の指を伸ばして立っている感覚を経験させましょう。」 もちろん脳性麻痺を持った子どもで麻痺の症状が完全になくなることはありません。でもその子の持っている運動学習の潜在能力をみながら経過をみる態度は、その子の持っている運動能力を簡単に決めつけないという意味で親御さんにとって信頼できるものに見えるのではないでしょうか。

知的能力障害 知的障害(精神遅滞) 精神運動発達遅滞

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  知的能力障害はDSM5(アメリカ精神医学会の精神疾患の診断分類)の中の診断名です。知的障害(精神遅滞)はICD-10(WHOによる疾病分類)の中の診断名です。 定義は全く同じという訳ではありませんが、知能検査の結果と生活上の適応機能の双方に問題があることが診断上の条件になっていることは共通です。(知能検査の結果だけで知的障害とは診断しないということです。) また、知的障害という診断自体は病態像なので原因は多様です。 知的能力障害・知的障害(精神遅滞)という診断とは別に理学療法士に医師から処方が来る際に「精神運動発達遅滞」という診断名で処方がだされることがあります。乳児期から幼児期初期の比較的初期の段階で、知的障害の診断基準は満たしておらず、染色体異常や脳性麻痺など他の診断名もついていない時にその子の発達の状態から「精神運動発達遅滞」の診断名がついてくる場合が多いように思います。医師によっては「運動発達遅滞」を診断名としてくる先生もいます。 精神運動発達遅滞という状態について理学療法士の立場から大切だと思っている論文があります。長崎大学医療短期大学部の穐山富太郎先生らが1986年1月に雑誌「リハビリテーション医学」に投稿した「精神運動発達遅滞児の早期療育効果」という論文です。 穐山先生らの論文には次のような文言があります。「精神遅滞児の症状は発達初期において行動発達遅滞としてとらえることができる。」つまり、精神運動発達遅滞は精神と運動のそれぞれ発達遅滞の合併ではなく、精神機能と運動機能の機能的な出会いや相互作用の問題がある子どもだということを述べられていて、今読んでも理学療法士の臨床上の大変示唆に富んでいると思います。 穐山先生らは同じ論文の中で、「精神遅滞児に対して生後早期から理学療法を加え、見つめ合い、語り合い、皮膚刺激、前庭刺激、深部覚刺激などの適切な感覚刺激を与え、行動体験を得させる意義は大きい。」とも書いています。

脳性麻痺 痙直型片麻痺

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  脳性麻痺の痙直型片麻痺を持っている子どもは将来的な移動機能の予後は歩行が可能になる子どもが大部分です。 ですから多くの場合乳幼児期は歩行獲得を目的に理学療法を行います。最初は端座位や立位での両側体重支持の経験をさせます。その後一側支持の姿勢も経験させていきます。歩行獲得後は歩行耐久性、スピードの向上などを求めて患側立脚後期がつくれるような練習をとりいれます。不整地・階段への適応など実用性を高めることが目標になります。 肩甲帯の安定を伴う患側上肢の選択的な使用や両手動作などの経験も小さいころからさせていきます。発達による脳の可塑性があるので予想以上に上肢の機能改善がみられる場合もあります。できるならば早期からPT・OTの両方の支援が受けられることがのぞましいと思います。脳性麻痺リハビリテーションガイドライン第2版ではボツリヌス療法、CI療法、集中上肢機能訓練も推奨されています。 変形拘縮への配慮も必要です。 上肢では肘の屈曲、前腕回内、手関節掌屈・尺屈、母指内転が生じやすいです。 下肢では内反尖足・外反尖足が生じやすいです。ストレッチなど運動療法に加えて、状況によっては装具療法も実施しますが、幼児期は筋力が弱いためプラスチック製の短下肢装具を使用する場合が多いようです。

脳性麻痺 痙直型四肢麻痺と痙直型両麻痺の比較

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両麻痺                                  四肢麻痺 脳性麻痺の痙直型四肢麻痺と両麻痺を比較してみます。 麻痺分布でみると頭部・上部体幹・上肢の麻痺の程度が下部体幹・下肢の麻痺に比べて軽いのが両麻痺ということになります。四肢麻痺は頭部・上部体幹・上肢の麻痺も強めです。 移動能力の発達では両麻痺は粗大運動能力分類システム(GMFCS)でⅠ~Ⅲのレベルが多いです。四肢麻痺ではⅢ~Ⅴのレベルが多くなります。 理学療法指導方針においては両麻痺では長期的には歩行能力や耐久性の維持・向上を目的とする場合が多くなり、四肢麻痺では姿勢変換能力の維持向上や座位能力の向上を目指す方が多くなります。 運動療法プログラムではストレッチや筋力強化に加え両麻痺では下部体幹(骨盤帯)の動的安定性と下肢の選択的運動を求めるプログラムを実施します。四肢麻痺ではそれに加えて頭部・体幹(肩甲帯・胸椎部)動的な安定性を伴う選択的な上肢機能の向上を図るプログラムも加えます。  

重症心身障害児 姿勢選択

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 立てない、座れない、寝返りができないなど自分一人でとることのできる姿勢が限られる子どもの場合補装具など道具の助けをかりて多様な姿勢をとらせることに配慮します。なぜ多様な姿勢をとらせるといいのでしょうか。 宇宙飛行士りができないなど自分一人でとることのできる姿勢が限られる子どもの場合補装具など道具の助けをかりて多様な姿勢をとらせることに配慮します。なぜ多様な姿勢をとらせるといいのでしょうか。 宇宙飛行士が宇宙空間に滞在する際の健康問題の一つに微小重力の問題があります。前庭器官の能力低下や心臓循環器の能力低下、骨や筋肉の構造・機能低下が出現するそうです。 重症心身障害児は微小重力空間にいるわけではありませんが、姿勢が限られることによって重力と肢位との関係が限られることになります。 立位がとれれば重力は頭尾方向にかかり、下肢骨長軸方向に力がかかることになりますが、座位までの子どもでは下肢骨長軸への力がかからず結果骨の成長に悪影響をもたらします。筋肉についても同様の事がいえます。もし背臥位しか取れないない子どもの場合は重力は常に身体の前面から後面に向けてかかります。結果として脊柱や四肢骨への長軸方向に力がかかりません。又、肋骨は長時間重力の力を受け続けられる構造ではないので変形をきたしやすくなります。 循環器系と重力の関係はどうでしょうか。人体は血液で満たされています。血液は下の方にたまりやすいので、立位は臥位に比べて心拍数や血圧を高く保たなければなりません。このことが心臓や血管の機能を高めることにつながります。また、寝たきり児の下側肺障害ということもあります。肺の中の血液や分泌物が肺の下側にたまり下側肺の機能が低下するという現象です。 人間の身体は立って歩いて活動し、休息するということによって健康が保たれます。身体構造と身体活動が一致しない子ども達にとって多くの姿勢をとるチャンスがあることは健康につながると考えます。私たちは誰でも健康でありたいという要求があります。重症心身障害を持つ子どもも私たちと同じように健康でありたい要求を持っています。

脳性麻痺 痙直型両麻痺

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  脳性麻痺(痙直型両麻痺)を持つ子どもは下部体幹から下肢にかけて麻痺症状が強い子どもです。 頭部・上肢・上部体幹の麻痺は比較的軽度なので、車いすで移動したり、杖歩行や両足に装具を付けての歩行が可能になる子どももいます。 体幹運動パターンには発達順に伸展・屈曲・側屈・回旋がありますが、両麻痺児の体幹部は低緊張で筋肉の働き不十分で抗重力活動が弱く運動パターンも減少している場合が多く観察されます。下肢は痙性で関節の運動性が乏しく、運動パターンも限られています。歩行能力が高い子どもは体幹部から股関節の運動能力が高い場合が多いようです。足関節・足部の運動性の欠如や変形拘縮は軽度~重度まで多くの子どもに観察されます。 治療は低年齢では運動療法と装具療法を行い、幼児期後期で下肢の過緊張が強い場合にはボトックス、選択的後根離断術、整形外科手術などの過緊張コントロールの治療を併用します。子どもの将来の移動能力を最大限に引き出すためには多機関連携やチームアプローチが重要と考えられます。 理学療法プログラムの中では、下肢のコントロールと体幹部の抗重力コントロールを同時に改善するようなプログラムとストレッチや筋力強化を組み合わせて行っている場合が多いと思います。 理学療法士から見ると下肢コントロールが変われば座位や立位での支持基底面が変わりその結果体幹コントロールのバリエーションが増しきます。逆に体幹コントロールが改善されたことによって下肢の運動パターンが増える場合もあります。体幹運動パターンの発達は生後の抗重力運動の経験の質に影響されるます。二次的な発達障害をおこさないようにすることは理学療法士の重要な役割の一つであると思っています。