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6月, 2021の投稿を表示しています

脳性麻痺

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 重力のある環境の中でうまく身体をつかっていくために、人は生後約一年の期間をかけて身体の使い方を急激に変化させていきます。 首のすわっていなかった赤ちゃんが一人で歩くまでになります。 生まれてすぐの赤ちゃんの脳の中には様々な身体の使い方のデータ(記憶)がはいっています。こういう状況ではこういう姿勢をとると快適だし目的が達成できるというようなデータ群です。 運動に関するデータ群は生まれる前から沢山頭の中にありますが、すべてを生まれてすぐ使えるというわけではありません。生後3か月とか6か月とか時期がくると順々に使えるデータ群が増えていきます。また、そのデータ群をそのまま使うのではなく少し調整したり、いくつかのデータ群を組み合わせたりすることでさらにうまくできることが増えていきます。 データ群のことを身体図式ともいいます。脳の中にある姿勢や運動とその時生じる感覚がセットになった記憶です。内部表象という言い方もします。身体図式は無意識の世界にあるものが大部分です。 脳性麻痺を持った子どもは姿勢と運動の発達に障害をもっています。その状態は一人一人で違いが大きいです。しかし、状況に応じて身体図式を柔軟に変更や調整することができないという点では共通しているところがあります。例えば、歩く時には歩く身体図式を使うといいのに、姿勢を安定させる身体図式を強く使いすぎてうまくいかないというようなことです。そういう固定的な姿勢·運動は子どもが意識しないのに生じてしまいます。 脳性麻痺を持った子どもの身体図式を健常児と同じようにすることはできませんし、する必要もないように思います。ただ、その子にとっての楽しい学習の機会を通じてその子なりの身体図式の多様化を図ることができればいいなと思っています。 こどもリハビリ相談

重症心身障害児 理学療法

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重症心身障害をもった子どもの理学療法の目的として多くの方から認められていることはなんでしょうか。一般的には関節可動域の改善・呼吸機能の向上・快適で機能的な姿勢の導入などがあると思います。 理学療法でこれらの目的を達成するために使われる支援仮説で重要なものの一つは、重症心身障害児の障害の原因には先天的なものもあれば、二次的(発達的or経験的)に生じるものあるということだと思います。そして、発達的or経験的に生じる障害は決して小さな量ではありません。 理学療法では姿勢運動の改善という方向性のアプローチが主となるので、重症心身障害を持っている子どもの抗重力活動やバランスの活動の潜在能力を見つけ出す評価が重要です。 本人一人で頭部や体幹を垂直位保てるかどうかを見る評価では課題が難しいのでなかなか点数がはいりません。しかし、ゆっくり注意深く介助したり、子どもが余裕をもって受け入れられる刺激をさがしてみましょう。 その子が潜在的にもっている姿勢の反応性を身体アライメントや筋収縮のレベルで見つけだせると、それをうまく利用することでリラクゼーション、ストレッチ、呼吸改善、日常の快適姿勢をみつけることにつなげられることもあります。セラピストにとってはその子の力を肯定的にみるきっかけにもなる点もあると思います。 重症心身障害児は広範な脳の障害により限られた抗重力活動のパターンを繰り返し使って重力環境に適応しています。臨床場面ではそのことが、生理的な機能やコミュニケーション機能とも相互関係をもっていることをよく経験します。

移動動作の獲得

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移動運動の獲得には下の様な機能の発達が必要です。 ①セントラルパターンジェネレーターの働きにより生み出されるリズミカルな左右交互運動パターンの出現 ②移動開始と停止能力 ③目的をイメージして記憶したり注意を維持する力 ④姿勢保持、外乱応答、予測的姿勢制御などいわゆるバランスといわれる能力 7~8か月の赤ちゃんが這い始める時には立位でのバランスはまだ不十分ですが、腹臥位においては上の四つの条件を満たし始めるのでずり這いがはじまると考えることができます。 移動運動の障害のある子どもでは一人一人色々な機能的な原因を一つもしくは複数もっていいます。子どもの障害の機能的な原因を鑑別するように評価することは有用だと思います。発達障害を持った子どもの一部に乳児期には②③の原因が主で移動しないのではないかと思われる子ども達がいます。脳性麻痺を持った子どもでは四つの機能すべてに不利がある可能性がありますが、発達障害の子に比べて①④の障害が重篤な場合が多いです。 参考文献 Anne Shumway-cook,Marjorie H. Woollacott著 「モーターコントロール 運動制御と臨床応用」 P.328 田中 繁,高橋 明 監訳 :医歯薬出版:2004  こどもリハビリ相談  

障害児用のバギーを選ぶ

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障害児用のバギー選びはいつも迷います。 お母さんにとっての実用性や快適性と子どもにとっての快適性の両方を兼ね備えなければならないからです。 お母さんにとっての実用性や快適性に影響する要素 ①バギーの重さ(持ち上げられるか) ②押して歩くときの操作性(直進性、不整地安定性、段差越え) ③折りたたみの方法(簡単におりたためるか、折りたたんだ時自立ができるか) ④荷物がのるか ⑤デザインの好み ⑥耐久性 子どもにとっての快適性・安全性に影響する要素 ①姿勢の安定 ②呼吸の安定 ②視覚や手の動きの保証 ③緊急時落下等の危険性防止 障害のある子どもの姿勢運動状況は非常に個性があるので全部の要素が平均して高い点数のものを選ぶというよりも、個別にそのお母さんと子どもの状態にあっているもの選ぶことになります。そのため悩みます。 まず、お母さんからはどんな点を重視して選びたいかを聞きます。一般用のバギーからの乗りかえが多いので、使用時間や頻度、使用環境に坂や段差はあるか、交通機関を使うのか、折りたたみは頻回に行うのかなどについての現状を事前に聞き取りしておくといいでしょう。 子どもの姿勢・運動の評価も事前にしっかりやっておく必要があります。 もし、あなたがセラピストならば医師、義士装具士、工房や車椅子業者とのチームであたることで、お母さんは色々な意見をきけて、よりベターで納得した選択がしやすいと思います。 こどもリハビリ相談  

生後の発達と脳

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生後の脳の神経細胞の発達を説明する時によく使われる指標は二つあります。 一つはシナプス形成です。脳が活動しだすと最初はシナプス数が増えていき、その後シナプス刈込期にシナプス数が減少してきます。シナプスの減少は機能低下につながるのではなく、より効率的な情報伝達が可能になって脳の機能としては向上につながります。 もう一つの指標は髄鞘化です。髄鞘化は神経の伝達スピードをあげることにつながります。   前頭前野は他の皮質領域に比べて働きはじめるのが一番遅くなります。生後7か月くらいからといわれています。この時期はシナプス形成が始まる時期でもあります。この頃のこどもは目的を達成するために手段を変えて試行錯誤することができはじます。過去にやっていた手段では目的がかなわない時にそれをキャンセルして別の方法が試せます。有名な実験に「A not B」課題というものがあります。*くわしくは「こどもの実行(遂行)機能」の投稿を読んでください。 前頭前野でシナプス刈込が生じるのは4歳くらいからと言われています。この時期は第一次反抗期が収まってくる時期です。保育園などでも順番待ちができたり、小さい子にやさしくできたりしてきます。大脳辺縁系の活動を少し抑制できるようになってきたのです。 前頭前野の髄消化も1歳ぐらいから徐々に進行して、成人期まで継続します。 こどもの行動変化の陰には脳の発達があります。脳の発達は遺伝子の発現と、外界との相互作用からくる経験の両方が影響を与えています。いわゆる発達障害領域のセラピストは、多様な個性を持った一人のこどもに対して、いつ、どんな経験をすることがそのこどもの将来につながるのかを考えて、日々様々な挑戦を繰り返す専門家だと思います。 こどもリハビリ相談

脳性麻痺 ジスキネティック型 ジストニック

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ジスキキネッティック型ジストニックタイプでは食事の際に口を開けようとすると反り返る、おもちゃに手を伸ばそうとすると全身で反り返るなどの現象がみられます。全身性の反り返りが生じると抱っこしにくいだけでなく、咀嚼嚥下が適切に行えない、上肢が使いにくいなどの困難が生じます。 ジストニックは不随意運動の一種なので意図しないで生じる運動ですが、多くの場合は外部状況の変化に伴って発生します。例えば食べ物を見て、先々口をあけることが必要な状況なので反り返ります。頭で状況を判断して反り返りが生じるまでの時間は非常に短いです。食べ物が口に近づいてきたから動作として口を開ける必要があって反り返っているというよりも、食べる状況を認識したので反り返っているという感じです。 いつも右手で自分の右側においたスイッチを押すことをしている子どもに本人の正中線よりも左側にスイッチをおいた場合には、本人は左側に手をのばすこと必要だとわかっていても右側に手を伸ばしてしまうことがあります。上肢の運動コントロールの問題ではあるが選択的運動の困難さというよりも、無意識下で最初に神経ネットワークに生じた運動指令を抑制することができずに出現している感じです。 そのような子どもはスイッチを提示する時にセラピストが本人の両手を胸の前で押さえていつもの動作の出現を抑えながら、しっかりスイッチの位置を見せるとその後の動作で右手を正中線を超えて左側に手を伸ばすことができる場合があります。選択的な運動の困難さというようりも、動作の衝動性を抑制できない問題と考えられます。療育では待つこと、しっかり空間的な状況を認識する時間をつくってあげることで本人の潜在能力がみられる場合があります。 こどもリハビリ相談  

レット症候群

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レット症候群は主に女の子に発症する遺伝性疾患です。1万~2万3千人に一人くらいの発生頻度です。 発症は乳児期後期からですが、成長に伴って症状変化するので①発達停滞期②退行期③仮性安定期④晩期機能低下4つのステージに分けて考えると理解しやすいといわれています。 症状は多様で一人一人の差があります。知的障害や自閉症状に加えて運動症状が出現します。運動症状の代表的なものは不随意的で繰り返して出現する上肢の手もみ運動、運動失行、バランス障害、変形拘縮(側弯・尖足など)などがあげられます。 色々な運動症状に対応した理学療法が必要ですが、セラピストが不随意運動や運動失行の存在をしっかりと意識することは大切だと思います。 思ったり、感じたりしていても運動表出が限定されてしまう子どもとして考え、 比較的意思が表現しやすい目の表情や、一見意味なく思えてしまう行動の意味付け、好きなことをが多い音楽の利用などから本人の潜在能力をみつけるという意識で関わると大きな発見があるように感じます。また、変形の予防も大切な観点であるのでおろそかにしてはいけません。 日本レット症候群協会ホームページ の中のレット症候群患児のご両親へのという項目をクリックしていただけるとレット博士の講演要旨という文章がのっています。レット症候群を持つこどもに対する愛情深い文章です。私は臨床を行っていく上で非常に啓発されました。 こどもリハビリ相談  

脳性麻痺 赤ちゃん 視覚機能の発達

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  脳性麻痺をもった赤ちゃんを育てる時に目を使いやすい環境に配慮する場合があります。具体的にはリラックスして対象的な姿勢をとったり、赤ちゃんが手を使いやすくなる姿勢や抱っこの方法を助言します。玩具を見やすい提示の仕方や視覚的に興味をひきやすい玩具について伝えたりすることもあります。 何故でそういうことをするのでしょうか。 脳の視覚に関連する細胞は生まれた時にすでにできあがっています。しかし、それらの細胞同士をつなぐ神経ネットワークは生後半年位の期間に急激につくられていきます。その際には色々なものを見たり、見たものを手で触ったりする経験が重要だと言われています。 一方の脳性麻痺を持った赤ちゃんは筋肉のコントロールの問題をもっています。目を動かすのは眼球についている筋肉です。眼球は頭部についているので頸部筋肉も関係してきます。頸部の筋肉は体幹に続くので体幹の筋肉も関係してきます。脳性麻痺を持ったこどもの中には頭部の正中位固定や空間での保持に困難さがあったり、眼球の選択的な運動に困難さがあるこどもがいます。 そこで脳性麻痺を持ったこどもの目が十分使えているかどうか評価し、助言や環境調整をする必要性がでてきます。 又、脳性麻痺を持った赤ちゃんの視覚の発達を評価する際には視覚機能・眼球運動と姿勢や上肢機能を関連付けて評価すると良いと思います。「いつでも注視が可能というわけではなくても、この姿勢をとらせれば注視ができる」というように潜在能力を見つけだすことができるかもしれません。 こどもリハビリ相談

歩きはじめ

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  歩きはじめのこどもは上肢のハイガードや下肢のワイドベースがみられます。歩幅は小さく体軸内回旋もみられません。 歩行がうまくいくための条件として、前進条件、安定条件、環境適応条件の3つを考えることがあります。歩きはじめの歩行は習熟した歩行に比べると安定条件の保障により多くを割いた歩き方といえるかもしれません。 歩くのが上手になったこどもは上肢がミドルやローガードなり、足の間隔も少しせまくなってきます。体軸内回旋もみられ、一歩の歩幅も少し大きくなります。神経の感覚運動ネットワークが発達し、同時に筋力も高くなってきたたためと考えられます。 屋内歩行が安定してきたこどもでも靴を履かせて外にでてみると、また上肢のを高く挙上して足幅もひろくなります。環境面の変化により安定条件や環境条件がより高いレベルで必要になったからといことができます。こどもは屋内を歩く時よりも短時間で疲れてしまいます。 歩きはじめたこどもには外遊びは神経ネットワークや筋力への良い刺激になります。外へいけないときは、体操マットの上をあるいたり、スロープを歩いたりするのも良い刺激になります。