【成人CP・重度側弯】車椅子上の除圧体操と現場の壁〜PTが巡回訪問で学んだ「運動指導+環境調整」の大切さ〜

 今回は、訪問・巡回リハビリの現場で出会った成人脳性麻痺(CP)のAさんとの取り組みについてご紹介します。

重度の脊柱側弯・後弯を伴う車椅子ユーザーの方にとって、「長時間座位による局所的な腰痛」は非常に多く寄せられる悩みの一つです。今回の事例を通して、PTとして運動を教えるだけでなく、「ご本人が気兼ねなく周囲に助けを求められる環境づくり」までを含めたアプローチの大切さを痛感しました。

1. 巡回現場での課題:横になれない環境下での腰痛対策

Aさんは作業所で電動車椅子に乗って過ごされていますが、時間が経つにつれて腰に強い痛みが生じていました。

原因は、重度の側弯・後弯によって体重の負荷が常に一側(凹側)に集中してしまうためです。 通常であれば「一度横になって圧を解放する(臥位をとる)」のが最も効果的ですが、作業所の設備やスケジュールの関係上、頻回に横になるのは難しい状況でした。

そこで提案したのが、「車椅子に乗ったまま自力で行う体重移動(除圧動作)」です。

  • 側屈運動(左右の除圧):負担が集中している凹側から凸側へゆっくり体幹を倒し、一時的に凹側の圧を逃がす。

  • 後屈・背もたれへのアプローチ(前後の分散):潰れがちな体幹を少し起こし、背もたれ全体へ体重をあずける。

これを「痛みが強くなる前(30分〜1時間に1回程度)」に習慣化してもらうようアドバイスしました。

2. 「体操は成功」…しかし現場で生じた意外な課題

後日、巡回訪問で様子を見に行くと、Aさんはとても熱心に体操を実践してくださっていました。「腰のラクさが全然違う」と効果も実感されており、PTとして嬉しく思っていたのですが、お話を詳しく伺う中でもうひとつの大きな課題が見えてきました。

それは、「体操をした後、車椅子上で身体が大きくずれてしまう」ということでした。

Aさんの車椅子は側弯に対応したポジショニング重視の構造になっているため、自力で体幹を大きく動かすと、どうしてもクッションやサポートの正しい位置から身体が崩れてしまいます。そして、側弯の程度が強いため、一度ずれてしまった姿勢を自力で元の位置に戻すことは困難でした。

つまり、体操の後は必ず「職員の方に姿勢を直してもらう(リセットする)介入」が必要だったのです。

3. 当事者が抱える心理的ハードルと「事前共有」の重要性

さらに重要だったのは、Aさんご自身の心理的な葛藤でした。

Aさんは、「体操をするたびに『姿勢を直してください』と声をかけるのは、職員さんの手を止めてしまって申し訳ない…」と深く遠慮されていたのです。作業所が忙しそうな時間帯であればなおさらです。

どれだけ効果的な自主トレ(体重移動)であっても、その後に「申し訳なさ」というストレスが生じてしまっては長続きしませんし、遠慮してズレた姿勢のまま過ごせば、逆に別の痛みを生む原因になってしまいます。

そこでPTとして提案したのが、「あらかじめ作業所の職員さんと『体操+姿勢直しのセット』の必要性を共有しておくこと」でした。

  • なぜその体操が必要なのか(腰痛予防と局所減圧のため)

  • なぜ体操後に姿勢がずれてしまうのか(車椅子の構造上避けられないため)

  • 放置するとどうなるのか(二次的な変形や痛みの悪化につながるため)

これらを事前に職員の方へお伝えし、理解を得ておくことで、姿勢直しは「個人的な遠慮が要るお願い」から「安全な作業所生活を続けるための日常的なケア」へと位置づけが変わります。

事前共有ができてからは、Aさんも変に申し訳なさを感じることなく「直してください」と声をかけられるようになり、職員の方もスムーズに対応してくれるサポート体制が整いました。

まとめ:PTとして伝えたいこと

セラピストが運動指導を行う際、ついつい「正しい動作ができるか」「痛みが減ったか」という身体機能面ばかりに目が向きがちです。

しかし、生活期・維持期の現場においては、「その運動を行った結果、生活環境や周囲との関係性にどんな変化が起きるか」まで想像力を働かせることが不可欠です。

自力での工夫(体操)と、周りへの適切なサポート依頼(環境調整)。この両輪が揃って初めて、当事者の方が安心して快適に過ごせるのだと、今回のAさんとの関わりを通して改めて学ばせていただきました。

同じように車椅子上での腰痛や、周囲への遠慮に悩まれている当事者・支援者の方のヒントになれば幸いです。

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