「できるはずなのに、組み合わせるとできない!」運動のマルチタスク(多重課題)と、支援をシンプルにする引き算の考え方
1. よくある「単体ではできるのに…」の謎
リハビリや日々の療育の中で、こんな場面に出会うことはありませんか?
「鉄棒にぶら下がることはしっかりできる」
「狙った場所に飛び降りることもできる」 それなのに、「ぶら下がって、揺れて、狙った場所に降りる」という一連の動作(複合的な動き)になった途端、そもそもぶら下がることすらできなくなって、すぐに手を離して飛び降りてしまう……。
「さっきまでできていたのになんで?」と不思議に思うかもしれませんが、これには子どもの脳の処理システム(注意の分配)が深く関係しています。
2. 「注意のキャパシティ」の限界(多重課題の難しさ)
人間が一度に意識を向けられる容量(注意のキャパシティ)には限界があります。 大人にとっては「一連の流れるような動作」に見えても、発達段階にある子どもにとっては、以下のように脳内で超マルチタスク(多重課題)が発生しています。
手でしっかりロープを握る(姿勢の保持)
タイミングよく体を揺らす(動的バランス)
着地する場所を目で捉える(空間の認知)
タイミングを計って手を離し、着地する(運動の企画と実行)
このようにやることが一気に増えると、脳は処理しきれなくなり、「一番気になる目的(今回は『着地する場所』)」に注意が100%吸い取られてしまいます。その結果、プロセスである「手元を維持してぶら下がる」という意識がすっかり抜け落ちてしまうのです。
3. 「引き算」で注意の負荷を減らす
このような時、「もっとしっかり握って!」「よく見て!」と声をかけても、キャパシティが限界を迎えている子どもにはなかなか届きません。
効果的なのは、「課題の難易度(注意を向ける要素)を引き算する」ことです。
例えば、今回のケースであれば:
「どこに降りてもいいよ(着地場所の制限をなくす)」というルールに変えてみる。
これだけで、「狙った場所に降りる」という脳のメモリ(注意)を大きく節約できます。すると、節約できたメモリを「しっかりぶら下がって揺れる」というプロセスに回せるようになり、結果として本来持っている力をスムーズに発揮できるようになります。
4. まとめ:小さなステップで「できた!」を積み重ねる
「できない」ように見える場面でも、それは能力が足りないのではなく、「脳にかかっている負荷(マルチタスク)が大きすぎるだけ」ということがよくあります。
まずは要素を「引き算」して、余裕を持って動ける楽しさを体験してもらうこと。 「ぶら下がって揺れる」が安定してきたら、少しずつ「じゃあ、この色のカーペットに降りてみようか」と難易度を足していく(スモールステップ)。
この「注意の引き算と足し算」の視点を持つことで、子どもの「できた!」の笑顔をより引き出しやすくなります。

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