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子どものリハと大人のリハの違い

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 脳に何らかの障害があって運動や行動に障害がある場合にリハビリの対象になってきます。脳障害に対するリハビリには 脳の可塑性( 刺激によって脳内の構造や機能を変化させる)によって生活機能を改善する方法と環境や道具を利用して生活機能を改善する方法、その他にも色々な方法があります。 今回の話の中でリハと言っているのは、脳の可塑性を利用して学習によって生活機能を改善しようというリハの事をさしています。 脳の可塑性には大きく3つの種類があるといわれています。一つは小児期の発達によるもの、二つ目は学習によるもの、三つ目は障害の回復によるものです。大人のリハでは二つ目と三つ目の脳の可塑性が重要になります。子どものリハでは三つの脳の可塑性の全てが重要になります。 脳の可塑性には ①神経細胞を新たにつくる ②シナプスと言われる神経細胞同士の結合を増やす。 ③不必要なシナプスを減らす ④神経伝達物質の種類を変化させて電気信号を伝わりやすくしたり、反対に抑えたりして結果として神経系ネットワークの働きをコントロールする。 ⑤軸索に髄鞘と呼ばれるコーティングをして電気信号の伝達速度を上げる などがあると言われています。 これらの変化は大人の場合障害に関連する領域に生じます。しかし、子どもの場合は障害領域だけでなく全ての脳神経細胞についての神経可塑性が生じます。神経細胞が新たにつくられるのは胎生前期です。その他の変化については胎生後期から生じ出生後も継続します。発達に伴う神経系の可塑性は成人期まで継続しますが、多くは乳幼児期に生じるといわれています。 子どものリハにおいては障害された脳に関連した領域の可塑性を検討するとともに、脳全体の可塑性についても考慮しなければなりません。発達に伴う脳の可塑性は領域ごとに順序性をもって生じるという点も重要です。障害部位の脳の機能を向上させようとしているその時に、同時に他の領域の脳が自然に発達していくことを考慮していかなければなりません。具体的には障害そのものだけでなく、二次的に生じる育ちの障害をいかに少なくするかということについては大人以上に配慮しなければならないということです。 子どもに関わるセラピストは神経科学・教育学・心理学など幅広い勉強も必要となると思います。

発達の順序性

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発達には順序性ということがあります。 首がすわって、お座りができて、一人で立てるというように運動発達では頭ー尾の法則といわれる順序性の原則があります。何故、多くの赤ちゃんが同じような順序で運動が発達するのでしょうか。 これは脳の成熟に関係しています。脳では部分ごとに成熟の時期が異なり、順序があります。 運動野のホムンクルス  運動野 ペンフィールド 上の図は大脳皮質運動野の領域が身体のどの部分を支配しているかを示してしています。脳の成熟は下から上の順序があります。脳内の身体図は逆立ちしているので、生じる運動を身体部位からみると頭から尾側に発達することになります。          ブロードマンの脳地図 ブロードマンの脳地図という脳の図もあります。運動野はブロードマンの脳地図で④野になります。そのすぐ後ろにある①②③野は感覚野といわれています。大脳皮質全体をみると④野や①②③野は他の部分よりも早く神経系の機能が働き始めます。言葉や思考が機能する前に、運動や感覚の機能が発達するというようのも神経成熟の順序とあっています。 しかし、実際のリハビリを行う上では発達の順序のみにとらわれ過ぎるのも良くない場合もあります。その子どもの能力を引き出すのに一番良い刺激は何なのかを考える時には、発達の順序性の知識は一つの一般論として考えておく方が良いでしょう。

逆境的小児期体験(ACEs)と障害児リハの関係

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  逆境的小児期体験(ACEs)という言葉をご存知でしょうか。虐待、家族の薬物乱用、家庭内暴力など家族の機能不全を経験した子どもは成人期になって健康に有害な影響を及ぼすということが科学的に示されています。 この原因は長期的な不安や緊張(ストレス状況)の継続により視床下部ー下垂体ー副腎系(HPA軸)によるストレス反応が暴走し、身体を壊すためといわれています。特に乳幼児期はこのHPA軸が発達途上にあるため影響が大きいと言われています。 また、このような現象は虐待、家庭内暴力など重篤な体験でなくても、家族間の愛情不足や両親の仲たがいなど比較的おこりやすい小児期逆境でも生じるという研究もでてきています。 子どものリハビリは時に子どもを傷つけストレスの原因となることはないのでしょうか。 障害というのは完全に治るものではありません。障害はある面個性と言い換えてもいいものです。乳幼児期においては個性というようなものも固まっておりません。神経系の可塑性も高く、変化の激しい時期です。そのため親は障害の軽減に熱心なる場合があります。しかし、それも個性として捉えなければならない日がきます。そうしなければ子どもにとって、自分の存在を否定されているかのように感じられ、ストレスを受けることになるでしょう。そのことが、子どもの障害にわたる健康や幸福を制限するならば、それを望む親などいるでしょうか。 リハビリにおいて人と違うやり方や参加の仕方でも、できることを認めていく代償的なアプローチや本人の意思決定を重視した提案型のアプローチについても認識されてきています。本当に子ども達の将来のためになるリハビリや理学療法でありたいと思っています。 参考文献 1)成人による逆境的小児期体験の報告ー5州 2009年 米国疾病管理予防センター報告 2)小児期トラウマがもたらす病 ドナ・ジャクソン・ナカザワ パンローリン グ

幼児期に適した運動

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 上の図はスキャモンの発育曲線というグラフです。子どもの年齢に応じたトレーニングを説明する時によく使用されます。それぞれ臓器の重量が成人期の重さの何パーセントにあたるかを示しています。 青線で示される脳や脊髄など神経系の重量は6歳までに90%を超えます。骨や筋肉が含まれる一般系と呼ばれる緑の線をみるとその重量は40%程度です。このことから幼児期は筋肉を大きくすようなトレーニングよりも、神経系のネットワークをつくるような運動が適していると言われています。 幼児期に適した運動とはどういう運動でしょうか。 ①楽しく遊びながらする運動 楽しく遊びの中で身体を使うことで、運動が記憶されやすくなります ②いろいろな運動 早く走るだけでなく、ゆっくり走ったり、障害物をよけてはしったりすればいろいろな神経ネットワークを使うことになります。もちろん走るだけでなく、ジャンプしたり、ボールを使ったり、相撲をとったりと運動の種類が違うと違う神経ネットワークが使われます ③毎日1時間程度身体を使う時間をつくる 体力をつけるためにはある程度の量は必要です。トレーニングというよりも遊びや生活の中で身体を使うようにしましょう。

赤ちゃんの脳の発達のために

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 赤ちゃんの脳の発達を促すためには3つのポイントがあるといわれています。 ①身近な大人とのコミュニケーション ②遂行機能の発達 ③過剰なストレスを避ける ①身近な大人とのコミュニケーション ここでいうコミュニケーションとは言葉だけでなく表情や発声なども含めた大人とのやり取りのことです。赤ちゃんが笑う⇔大人が笑う、赤ちゃんが声をだす⇔大人も声をだすなどターンテイキング(話者交替)が大切だそうです。人は集団でいきていく生き物です。人との関係の最初の一歩をしっかり経験させることは重要です。 ②遂行機能の発達 遂行機能とは目的を持った行動を効果的に成し遂げるための機能です。例えばゴミをゴミ箱に捨てるという行動は、ゴミ箱に捨てる目的を理解し、記憶する必要があります、又途中で飼い猫が前を横切って走ってきたらそれに気づき立ち止まらなくてはぶつかって転んでしまいます。また、自分が猫について行ってしまっては目的が達成できません。記憶や注意の配分を時によって優先順位をつけながらうまく使っていくことが必要です。赤ちゃんの遂行機能は自発的に感覚や運動を使って様々な環境を探索することで自然に発達します。遂行機能の発達の大事さについて親御さんが知っていて安全に探索できる(動き回れるような)環境を提供することは良いでしょう。 ③過剰なストレスを避ける 小学生に比べて赤ちゃんは緊張や、不安になったりしやすく(ストレス状態)、その状態から通常の状態に戻る力も弱いと言われています。過剰なストレスは脳の成長にも悪い影響があると言われています。過剰なストレスとは長期間にわたり緊張状態を強いられているような状況を言います。回復可能なストレスは行動の発達を促すという良い側面もありますのでストレスを全く与えないようにしろということではありません。しかし、基本的には赤ちゃんが安心できて、楽しそうにいられることは大切です。 参考サイト THE BRAIN STORY

乳幼児の運動を促す(タイミングの重要性について)

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 乳幼児期は神経ネットワーク形成が盛んにおこなわれる時期です。年を重ねると子どもが示す運動様式も大きく変化していきます。四つ這い移動をしたり、伝い歩きをしていた子どもがいつか一人で歩きだします。 親御さんにとってはとても楽しみですし、周りに同じ年齢の子どもいて先に歩いてると少し不安になったりもします。 昨日はじめて伝い歩きができた子供が今日一人で歩きだすということはあまりません。この期間にはかなり個人差があって一概に何か月したら一人で歩くよということはできません。この期間の長さは子どもの神経ネットワークの成長や筋肉の成長や行動傾向、経験の量や質によっても変わってきます。 運動仕方をよく見てみると同じ伝い歩きでも初期に比べて足のステップがスムースになる、体幹の回旋運動をなうようになるなどの変化があります。 このことから言えることは何でしょうか。歩く練習や遊びをさせるにしても伝い歩きを習熟させる時期と独り歩きへチャレンジする時がありその子に合わせた適切なタイミングあるということです。 ある一人の子どもに大人がどのようにかかわるのか、これには適切なタイミングがあるということは運動面だけに限らず子育ての基本であると言われています。ある先生からこのような助言を受けたことがあります。 「子どもと付き合う時に大事なことは愛と信頼だよ。愛とは子どもに合わせてあげること、信頼とはいつかできるようになると待ち続けることだ。」 人間というのは長期間を子育てに費やす動物です。親はその子どもに対して適切な時期を見極める力も持っているのではないでしょうか。ただ、親が他の子どもと比較したり、焦ったりしすぎることはその力を弱めてしまうように感じます。

歩くことが上手になる

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 歩くことが上手になるというのはどういうことでしょうか。長い距離が歩けるようにようになった。転ぶことが少なくなった。そのような変化は歩くことが上手になったと言えると思います。歩くことが上手になった子どもは同時に歩き方も上手になっています。 下の絵は歩き始めの子どもを描いてています                        右足を前にだすために左側に上体を傾けています。両手は胸よりも高くあげられています。左右の足の間隔は肩幅よりも広くなっています。 下の絵は歩くことが上手になった子どもを描いています 右足をだすために上体を左側に傾けることがなくなり、その代わりに体幹かの捻じりがはいってきます。左右の足の幅も狭くなってきます。 歩き方が変わるためには子供の二つの能力の向上が必要といわれています。 ①体幹を上手に使えること  上手というのは体幹に前後・左右・回旋(ねじり)の動きができることです。這い這いや伝い歩きなど歩く前に獲得される動作の中で習得されます。歩き始めたからといって歩くことばかりでなく、這い這いや伝い歩きで色々なところを動きまわりましょう。 ②バランスが上手になること 床がでこぼこであったり、段差があったり変化に富んだ環境の中で動きまわりましょう。不意に転びそうになっ手も立ち直る能力、自分でこれから起こる体の変化を予想して動き回る能力を身に着けることが大切です。必ずしも歩いて移動しなければならないという訳ではありません。這い這いや伝い歩きなどすでに安定している姿勢の方が子どもの体から余計な力が抜けています。そのためバランス対応もしやすく練習効果が高くなる場合が少なくありません。