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脳性麻痺 そり返りの強い子を抱っこする

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  アテトーゼ型でディストニックといわれる子どもの絵です。全身を強く伸展してしまうので次の絵のように抱っこをするのが大変です。 対応策の基本は身体の中で曲げやすいところを探してそこから順々に屈曲させていくというものです。基本的には最初に頭と肩を前に出す方が楽か、脚を曲げるのかどちらが楽に曲げられるかを探します。子どもは一か所を屈曲位にもっていくと他の箇所も屈曲しやすくなります。 最初に頭と肩を一緒に曲げる方法の場合、介助者は子どもの頭の後ろに自分の腕をまわして子どもの両肩と頭を前に押します。その際前方から胸の真ん中の胸骨を少し押しながら行うといいでしょう。その後上半身の屈曲をキープしたまま脚を曲げていきます。 最初に脚から曲げる場合は足指を曲げてから膝・股関節を曲げると比較的少ない力で脚を曲げられ子どもがいます。

脳性麻痺アテトーゼ型の運動症状(過剰な相反神経抑制)

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 脳性麻痺アテトーゼ型のヒョレアタイプでは不随運動(スパズム)という症状とともに過剰な相反神経抑制といわれる症状もみられます。 関節運動における正常な相反神経制御とは下の絵のように肘の運動を例にすると、上腕二頭筋の収縮6にして上腕三頭筋の収縮4なら肘は曲がる方向に動きます。反対に肘を伸ばす時には上腕二頭筋の収縮4にして上腕三頭筋の収縮6にします。上腕二頭筋の収縮を5にして上腕三頭筋の収縮を5とすると力のつり合いがとれての運動は止まってその肢位で関節運動が止まることになります。上腕二頭筋を10にして上腕三頭筋を0にするという形での関節コントロールはあまり行いません。 アテトーゼ型の子どもは肘を伸ばそうとすると上腕二頭筋の収縮0になり、上腕三頭筋の収縮が10になってしまいます。こうなると関節は完全に伸び切ってしまうので肘を中間の角度で止めておくことができません。結果として肘のコントロールが困難になります。同時に手先を細かくコントロールするためには肘関節が止まっていることが必要ですので、手先のコントロールも困難性が増します。 このような時アテトーゼ型の子どもは例えば前腕を強く壁に押し付けることで壁からの反力を得て、それを上腕二頭筋の収縮の代わりにすることによって手先をうまく使おうとする場合があります。力の機序としては上腕二頭筋の収縮のかわりに壁の反力を利用しているといえます。 例えば食事で口を動かしたい時は自分を後頭部を車いすの背もたれに押し付けたりします。これも顔、口に対してより中枢側にあたる頸部関節を外力によって固定するという意味で同じような力の使い方です。 外的な安定によって抹消を使う戦略はアテトーゼ型の子どもにとって大事な戦略です。しかし、一つの戦略に頼り過ぎると色々とうまくいかないこともあるので筋肉の収縮によって安定させるトレーニング(同時収縮の練習)を理学療法プログラムとして選択することもあります。

脳室周囲白質軟化症による脳性麻痺痙直型両麻痺の乳幼児期の理学療法

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    早産・低出生体重児に伴う神経学的障害の一つに脳室周囲白質軟化症があります。早産・低出生体重児の脳血管が未熟なために起こりやすい脳の深い部位の脳虚血障害で、錐体路という運動に関連する神経伝導路の近くで起こるために脳性麻痺の原因となることがあります。 脳性麻痺が生じた場合、下肢や体幹に麻痺が出ることが多くあります。また満期産児に比べて子宮内での自発運動や体性感覚経験の減少やそれに伴う神経経路の未成熟が生じやすいことからくる発達の問題も同時に抱えていることがあります。 運動面では下肢の麻痺、強い体幹の低緊張が同時に生じます。その他いろいろな合併症に気を付けながらPTは運動発達を促す支援をしていきます。 このような子どもの中には一人でつかまって立ったり、伝い歩きがはじまると下肢のツッパリがより一層目立ってくる子どもが多いので注意が必要です。 私たちがスキーやローラースケートを初めてやった時には下肢に力が入り過ぎて、うまくコントロールできない現象が生じますが、体幹の低緊張が強い子どもには似たような現象が伝い歩きでもおこるのだと思われます。 このような子どもの立位練習で理学療法士は、どんどんつたい歩きさせるだけでなく、時には子どもの動きを少し制限してしっかりと両足で立つような練習を多めにするようにします。 しっかりと両足で立って少しだけの重心移動を根気よく経験させると体幹の筋肉が働いてくることが多いからです。 お母さんには「子どもが自分から伝い歩きをしたりするのを止める必要はありませんが、親御さんがついていられる時は両足でしっかり立ってその場で遊ぶような機会をつくるといいですよ。」とお伝えすることがあります。その時は足の指が曲がったり、踵が浮かないように気を付けてもらいます。

重症心身障害児の呼吸管理

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  重症心身障害児の呼吸障害いくつかの原因があります。 対策も異なるのでお子様の呼吸障害のタイプを知っていることは大切です。複数の状態が併存しているお子様もおられます。 大きくは3つのタイプがあると言われています。 ①中枢性低換気(脳幹部の呼吸中枢)の障害 一次性(重症仮死に伴うもの)二次性のもの(気道狭窄により低酸素・低換気が継続することによって呼吸中枢が麻痺してくるものやお薬の影響によるもの)あります。 対策はNPPVなど人工呼吸器の使用やお薬の調整があります。 ②上気道下気道の空気通過が悪くなるもの(閉塞性呼吸障害) イラストに示したように様々の原因があります。代表的なものはアデノイドの肥大、舌根沈下、下顎の後退、喉頭軟化・披裂部陥入・気道狭窄・気管支喘息などがあります。 対策として経鼻エアウエイ、アデノイドへの耳鼻咽喉科的治療、気管切開、喉頭軟化に対する外科的治療、喘息への薬物治療・ポジショニングなどがあります。 ③肺が広がりにくくなるもの(拘束性換気障害)                        胸郭の変形・呼吸筋の機能低下・肺炎などが原因となります。対策として、呼吸筋のストレッチ、呼吸介助法、体位排痰、薬物治療、ポジショニングがあります。 重症心身障害児では上記3つの呼吸障害に加えて呼吸憎悪因子があるといわれています。                     ①分泌物貯留②胃食道逆流症③誤嚥④てんかん⑤過緊張などがそれにあたります。これらの症状の改善も呼吸機能の改善につながります。 体調が悪くなって入院している状態と、安定した状態で家庭にいる時では対応方法も変わってきます。体調に合わせてにはなりますが、安全・安心・安楽な状態を作ることが目標になってきます。                                

F-word (障害児の生活機能把握の考え方)

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カナダのMacmaster大学にある CanChild のRosembaum教授らが提唱している「F-word」という障害児の生活把握方法があります。世界保健機関(WHO)の国際生活機能分類(以下ICF)の枠組みに障害を持った子どもの生活に重要なな6要素を当てはめてつくられています。新しい小児理学療法の成書でも紹介されるようになってきました。 6要素とは「Fitness フィットネス」「Function 機能」「Friends 友達」「Family 家族」「Fun 楽しみ」「Future 未来への期待や夢」の6つの要素です。それぞれの意味や関係性について詳細は次のリンク「 F-word 」を参照していただけるとありがたいと思います。ICFでは「心身機能・身体構造」「活動」「参加」「環境」「個人因子」という要素で生活機能を表しています。それに比べてより誰にでもイメージが持ちやすいと思いました。 私自身はこの考えを知った時に最初に印象に残ったのはポスター紹介の中の「Function 機能」についての説明でした。ポスターでは生活の中で何かができることについて障害を持った子どもが「他の人とやり方は違うかもしれないけど、それは大事なことではないでしょ。自分はできるのだから挑戦させて!!」と言っていました。 理学療法士は生活の中で何かができるようにする仕事です。ただ、やり方を決めつけた中での何かができるようになる事を求めがちです。(未来の理学療法士は違うのかもしれない。)何かができるのにやり方は関係ないということはもう一度頭にいれておこうと思い印象に残りました。  

関節拘縮

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  運動麻痺があったり、関節や筋肉の障害が原因で生活の中で関節を動かすことが困難な方では関節の拘縮(関節の動く範囲が制限されるが状態)が起こりやすいといわれています。 大人の方でも関節拘縮は生じますが、子どもの場合には大人と違った原因もあります。 まず大人と子どもに共通な原因は、麻痺や筋力低下、痛み、治療のためのギプス固定などにより長期間関節動かせないことにより、筋肉やその他の関節周囲の軟部組織が短縮してしまうことです。 次に子ども独自の原因です。子ども場合は骨の成長が著しいことが拘縮の発生に拍車をかけます。身長が伸びていく時には骨は少しずつ自分で伸びていきますが、筋肉は筋肉自身が自分だけで伸びていくのではなく、関節が動く時に伸ばされることでその長さが伸びていきます。骨と筋肉が長さが伸びる方法が違うので、身長が伸びる時期には拘縮が進みやすくなります。麻痺が悪くなったのではないかと思われる親御さんもいらっしゃいますが、生まれつきの関節拘縮で麻痺がない方でも変形は進行します。 小学校6年生までの伸長の平均は男女差がありませんが、思春期が始まるために女子の伸長は10歳~12歳の2年間に急速に伸び、その後発育速度は急速に落ちていきます。男子は遅れて11歳~14歳の3年間に急速に身長が伸びます。 この時期は拘縮が進みやすくなります。 関節の可動範囲に問題があるお子さんでは小学校期には、ストレッチを毎日行うように指導しています。 ストレッチをする際は以下のことに配慮しましょう。 ①どの筋肉をストレッチする必要があるか専門家に特定してもらう(ストレッチする筋肉の数を限定して実施時間を最小にする)  ②毎日習慣にできるように、日常のルーチンにとりいれる(お風呂の後、寝る前など) ③関節を動かす際はゆっくりと愛護的に動かし無理な力で動かさない ④関節の動きの最終域で止めて20秒保持する ⑤状況によってはマッサージや筋膜リリースと組み合わせる(詳しい方法は別の機会にお伝えできればと思います)

脳性麻痺児の理学療法 アテトーゼ型 ヒョレア

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脳性麻痺を持った子どもと言ってもその状態像はかなり多様です。そのため理学療法プログラムを決定していく時には現在年齢、粗大運動能力分類システム(GMFCS)*による粗大運動の予後予測と共に麻痺のタイプと分布を考慮して大枠の分類を考えながら行っていきます。 今日は麻痺のタイプの一つであるアテトーゼ型の中のヒョレア型についてお話します。アテトーゼ型の障害は脳の大脳基底核システムの損傷に由来するとされています。運動の症状としては安定性の障害といわれれます。 筋肉の緊張は低めなので柔らかく、無意識で関節運動が生じたりします。そのため中間位で関節運動を止めておくことができません。 関節運動が中間位でとめられないとどういうことがおきるでしょうか。例えば立位における下肢を考えてみましょう。股関節が屈曲伸展の中間位で体重を支えている状態が一番安定しています。足関節も90度くらいの角度で一番安定します。このような配置をすると立位が安定していることを脳は関節や筋肉からの固有感覚情報と視覚・前庭感覚を統合することで記憶していきます。そのような記憶の事を身体図式と呼びます。 このような身体図式が獲得されていくのは生後です。もし、生後すぐに股関節の周囲の筋肉に不随意運動があったり、股関節を曲げる筋肉と伸ばす筋肉を同時に収縮させることができない子どもさんは立位の身体図式の獲得に問題が生じます。 理学療法士はその子の生活上立位姿勢の獲得が可能であると思えば、良い下肢の配置の中で体重を付加し、その際に生じる多種の感覚を刺激して身体図式を学習させる方法をいくつか知っています。 例えば上肢に麻痺が少なければ上肢をテーブルに支持させながら直立位をとらせたり、下肢の関節に圧迫刺激を加えたり、様々な装具を使用したりするなどの工夫があります。 *粗大運動能力システム(GMFCS)について詳しく知りたい方はインターネット検索をかけてみてください。すぐでてきます。