投稿

予後を伝える時に注意すること

イメージ
  予後というのは将来その子がどんな状態になるのかの予測のことです。セラピストは地域で家族や関係者と話し合いをもつことがあります。一般にはそういう会議の場で障害の専門家として期待されることは予後と具体的な対応を伝える事と言われています。 ただ、専門家とされる人の発言には影響力があるので注意が必要です。例えば他の施設との会議の場で理学療法士が「この子は歩けるようにはなりません、歩けるようになることを期待して関わるのは適切ではありません。」とだけ伝えたらどうでしょうか。介助すれば立つことができる子なのに施設の職員さんは立たせる事もやめてしまうかもしれません。「もしかして脚の関節に悪い影響があるのかもしれない。」と勘違いしてしまうかもしれません。 予後を伝える時には「できるようになること」「できるようになったらこんなに良いことが起きるよということ」をセットにして伝えてほしいのです。どんな素敵な未来があるのかを伝えるために専門家がいるのではないでしょうか。 手をつないで歩けるようになったら、その子と手をつないで歩いてくれる大人が増えるのです。色々な人と手をつないで歩けるようになるのです。その事がどれだけ大きな発達なのかを語れる人になってほしいのです。  もちろん子どもの心や身体にとって無理のある練習を続けているならば中止しなければなりません。それも専門家として大切な事です。ただ、できないことだけを言っているならば片手落ちだと思うのです。 振り返れば私たちにも「できないこと」は山ほどあって、それだけをわざわざ言われても辛いというのは子どもにとっても同じことです。 こどもリハビリ相談

小児と成人の脳性運動障害の違い 図で考える

イメージ
  歩く時使用する感覚運動神経の活動は循環することにより適応的な歩行活動が可能になっています。 成人の脳卒中などで運動障害が起きた場合は完成されたサークルの一部が損傷されて歩行機能の低下が起きているイメージです。 脳性麻痺などで生まれた時から運動障害がある場合は発達が未熟でサークルとして完成していません。どんな子どもも生まれてすぐに歩いている子どもはいないので、感覚運動のサークルはつながっていません。健常児であれば加齢によって感覚運動サークルはつながってきます。脳性麻痺児であっても発達によってサークルが完成してきますが、一部困難性を残します。 小児のリハでは発達を促すこと、障害の回復を促すこと、未経験などによる2次障害を減らすことの3つの側面が検討されます。 感覚運動のサークルをつくり自分の身体の状況にあった頭の中の神経の地図をつくるために、小児の場合は自分で環境を捉え、自発的に歩行開始し、成功して覚えるというような側面も考える必要があります。そのために使われる神経の機能もサークルをつなぐために必要だからです。 こどもリハビリ相談

抱っこの仕方を伝える

イメージ
 絵はそり返りの強い子どもを抱っこしているところです。子どもが安心して抱っこされるような方法を親や支援者に伝えることがあります。でもなかなかうまく伝えるのは難しいものです。 難しさの原因は何でしょうか。一つは子どもの身体に関してのイメージがセラピストと親で違いがある場合があります。そり返りやすい子ども、丸まりやすい子ども、グニャグニャの子どもその子はどうして抱きにくいのかをわかりやすい言葉で伝えましょう。又、親が抱きやすく、子ども抱かれやすい方法で抱くと何がいいのかのイメージが共有されていないこともあります。呼吸が良くなる、体温が上がらない、疲労しない、安心するなどその抱っこをした結果どんないいことがあるのかもイメージが共有される必要があります。 二つ目はセラピストと親や支援者の体格の違いがあります。セラピストが目の前のこういう風に抱っこしましょうと見せるのは一見わかりやすいのですが、実際に支援者がやってみるとセラピストと手の長さがたりなかったり、足の太さが違っていたりして中々うまくいきません。目の前でみせればできるというわけではないようです。 以上の二つの点を考慮して、抱っこの仕方を伝える時には次のように配慮しています。 ①子どもの身体特徴を伝える②安定した抱っこのメリットを伝える③抱き方のポイントを伝える 例えば頭と肩は前に胸は後ろに、股関節は曲げてなど④一例をセラピストがやって見せる⑤やれそうな方法で支援者自身にやってもらいやりやすい方法を探す こどもリハビリ相談

小児期の脳性運動障害 成人との違いなど

イメージ
感覚情報を受け取り、脳内で多様なネットワークで計算して運動指令を出すことを繰り返して行動が変化することを学習といいます。使用できるネットワークが多ければより適応的な運動ができるといえるでしょう。 脳にダメージを受けて運動に障害が出る時はこの計算過程に問題が生じているといえます。 一方に発達という現象があります。乳児から幼児・学童へと年齢が高くなると使用できるネットワークの数が増えたりや情報処理のスピードが速くなります。発達に伴う脳の可塑性は脳内の運動指令に関与する部位だけでなく感覚情報の分析や行動企画、情緒に関与する部位にも生じます。部位によって時期の速い遅いはありますが、脳の発達は脳の全体で生じます。 例えば自信であるとか、自主性や意欲ということについては発達の中で確立していきます。子どもの場合は特別な配慮が必要になります。自信については親御さんや身の回りの大人の称賛や子どもへの信頼が必要になります。そのようなことへの理解は自然に子育ての文化として親御さんは持っていますが、障害がある子どもの親としてのストレスや不安がそれを妨げてしますかもしれません。 歩く機能ということでも、過去に歩いた経験のある人と、一度もあるいたことない子どもでは運動のイメージということについて違いがあります。子どもは実際に歩行練習することがより重要になるといわれるのはそういうことかもしれません。 小児科医師、保育士や幼稚園教諭などは乳幼児期の子育てについて専門家としてより深い知識や技術をもっています。リハビリの専門家は障害やその回復についての知識や技術が高いでしょう。チームワークによって障害の回復と発達の保証は同時に目指すことが必要だと思います。 こどもリハビリ相談  

脳性麻痺 クロートウ(Claw toe)

イメージ
  痙直型の脳性麻痺をもったお子さんの中に足のゆびが曲がっている状態で体重を支えている子どもがいます。クロートウといって足のゆびを曲げる筋肉の緊張が高いと生じます。大人の脳卒中後の後遺症でもこのような足で体重を支える方がいます。 何十年か前に私が新人の頃痙直型の子どもに立位の練習をしている時、足のゆびが曲がった状態のままで立たせていると指導者の先生からストレッチなどして足のゆびが伸びた状態で立たせないといけないと指導を受けました。     足の裏の体重負荷の感覚をしっかりいれると、それが無意識に脳の中で別の足の状態として記憶され、後に足のゆびを伸ばした状態で立てるようになる可能性があることを後で知りました。それは形だけの問題ではなく、バランスや歩行能力の向上にもつながります。 もちろん麻痺の状態によってそれを経験させるだけでは改善しない子どももいますが、特に年齢の小さいうちは感覚運動の神経ネットワークの働きの向上が期待できるのでPTの時は必ずしっかり足のゆびを伸ばして立たせますし、お父さんやお母さんにも家で手がとれる時は足のゆびを伸ばすように助言しています。 そうした指導でどの子どもは感覚運動経験が運動の改善につながり、どの子どもは改善につながらないのかを事前に子どもに何らかのテストしてみて判別できればいいのですが、正直やってみなければわからないということはあります。やってみなければ改善する可能性はゼロですから、やってみて経過を追い判断するようにするのが良いと思っています。 こどもリハビリ相談

脳性麻痺 痙直型両麻痺 理学療法

イメージ
脳性麻痺の痙直型両麻痺は痙性麻痺が下部体幹から下肢にかけてあります。 痙性麻痺は下肢の自由な動きを阻害したり、変形拘縮の原因にもなります。 痙性治療は運動療法、装具療法、経口抗痙縮薬、ボツリヌス療法、ITB、フェノールブロック、選択的脊髄後根離断術、整形外科手術などを組み合わせて実施します。 脳性麻痺の痙直型両麻痺を持った子どもの多くはGMFCSのレベルⅠ~Ⅲにあるので最終的の移動能力として歩行練習を行うことになります。歩行のみの移動になるのか、車いすなど併用するかはその方の状況によってことなります。 1) 脳性麻痺痙直型両麻痺の運動療法では筋力強化やストレッチ、歩行練習ととも身体のイメージを高める練習として以下のようなプログラムをその子に合わせて行うこともあります。 ①   骨盤を安定させて下肢を選択的に運動させることや下肢を安定させて骨盤をコントロールする練習 ②足部を床面に接して動かす練習 ③頭部体幹下肢を一直線上にして真っすぐ立つ練習 ④足首を使って立位から前方への体重移動する練習 ⑤一側の足を後方において前後にステップしているような姿勢を保つ練習   *ご父兄の方でブログを読んでおられる方へ   脳性麻痺をもった子どもの状態像は複雑なので痙直型両麻痺といっても同じではありません。その子の状況に合わせた支援を専門家と考えることをお勧めします。 参考文献 1)中徹 : 脳性麻痺の理学療法 . 理学療法学 40(4):302 ‐ 305.2013 こどもリハビリ相談

家族中心ケア②

イメージ
  なぜ家族中心なのでしょう。 アメリカで家族中心ケアの考え方がでてきたのは1960年代消費者運動に起源がある 1) といわれているそうです。その後長い歴史を経てきて色々な考え方が家族中心ケアの考えに影響を与えてきて現在の家族中心ケアの概念ができています。家族中心ケアの概念は色々なものを含んでいることを知っておきましょう。 小さい子どもは支援契約ができないので親が代わりに契約するということがあります。情報を提供し、家族の意見を取り入れていくことで子どもや家族の権利を守ることができます。 小さい子どもでは身近な信頼できる大人との愛着の形成が人格形成の形成に重要であるという考え方があります。お父さんやお母さんは子どもにとって大好きな人で将来にわたって心のよりどころになります。安全・安心な家庭で生活することは子どもの発達にとっても大事なことです。そのために家族の存在は欠かせません。 家族は個々のユニークな子どもの生活や生活環境についてよく知っています。子どもも家族のことを信頼しています。ですから支援チームの一員として家族を考えようという考えもあります。 子どもへの支援を仕事にしていくと家族と接する事が多くあります。家族は、子どもが支援を受けられるようにするためだけにいるのでなく、インフォームドコンセントを理解するためにだけいるのでもなく、子どもへの支援の効果を高めるためにもわざわざ参加してもらっているのだと考えると良いと思います。 参考文献  1)総論(1) 基本に戻ってもう一度確認しよう! ファミリーセンタードケアの4つの中心概念  浅井宏美 聖路加看護大学大学院看護学研究科博士後期課程  ネオネイタルケア    26(10):  990-995, 2013. こどもリハビリ相談