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生後の発達と脳

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生後の脳の神経細胞の発達を説明する時によく使われる指標は二つあります。 一つはシナプス形成です。脳が活動しだすと最初はシナプス数が増えていき、その後シナプス刈込期にシナプス数が減少してきます。シナプスの減少は機能低下につながるのではなく、より効率的な情報伝達が可能になって脳の機能としては向上につながります。 もう一つの指標は髄鞘化です。髄鞘化は神経の伝達スピードをあげることにつながります。   前頭前野は他の皮質領域に比べて働きはじめるのが一番遅くなります。生後7か月くらいからといわれています。この時期はシナプス形成が始まる時期でもあります。この頃のこどもは目的を達成するために手段を変えて試行錯誤することができはじます。過去にやっていた手段では目的がかなわない時にそれをキャンセルして別の方法が試せます。有名な実験に「A not B」課題というものがあります。*くわしくは「こどもの実行(遂行)機能」の投稿を読んでください。 前頭前野でシナプス刈込が生じるのは4歳くらいからと言われています。この時期は第一次反抗期が収まってくる時期です。保育園などでも順番待ちができたり、小さい子にやさしくできたりしてきます。大脳辺縁系の活動を少し抑制できるようになってきたのです。 前頭前野の髄消化も1歳ぐらいから徐々に進行して、成人期まで継続します。 こどもの行動変化の陰には脳の発達があります。脳の発達は遺伝子の発現と、外界との相互作用からくる経験の両方が影響を与えています。いわゆる発達障害領域のセラピストは、多様な個性を持った一人のこどもに対して、いつ、どんな経験をすることがそのこどもの将来につながるのかを考えて、日々様々な挑戦を繰り返す専門家だと思います。 こどもリハビリ相談

脳性麻痺 ジスキネティック型 ジストニック

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ジスキキネッティック型ジストニックタイプでは食事の際に口を開けようとすると反り返る、おもちゃに手を伸ばそうとすると全身で反り返るなどの現象がみられます。全身性の反り返りが生じると抱っこしにくいだけでなく、咀嚼嚥下が適切に行えない、上肢が使いにくいなどの困難が生じます。 ジストニックは不随意運動の一種なので意図しないで生じる運動ですが、多くの場合は外部状況の変化に伴って発生します。例えば食べ物を見て、先々口をあけることが必要な状況なので反り返ります。頭で状況を判断して反り返りが生じるまでの時間は非常に短いです。食べ物が口に近づいてきたから動作として口を開ける必要があって反り返っているというよりも、食べる状況を認識したので反り返っているという感じです。 いつも右手で自分の右側においたスイッチを押すことをしている子どもに本人の正中線よりも左側にスイッチをおいた場合には、本人は左側に手をのばすこと必要だとわかっていても右側に手を伸ばしてしまうことがあります。上肢の運動コントロールの問題ではあるが選択的運動の困難さというよりも、無意識下で最初に神経ネットワークに生じた運動指令を抑制することができずに出現している感じです。 そのような子どもはスイッチを提示する時にセラピストが本人の両手を胸の前で押さえていつもの動作の出現を抑えながら、しっかりスイッチの位置を見せるとその後の動作で右手を正中線を超えて左側に手を伸ばすことができる場合があります。選択的な運動の困難さというようりも、動作の衝動性を抑制できない問題と考えられます。療育では待つこと、しっかり空間的な状況を認識する時間をつくってあげることで本人の潜在能力がみられる場合があります。 こどもリハビリ相談  

レット症候群

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レット症候群は主に女の子に発症する遺伝性疾患です。1万~2万3千人に一人くらいの発生頻度です。 発症は乳児期後期からですが、成長に伴って症状変化するので①発達停滞期②退行期③仮性安定期④晩期機能低下4つのステージに分けて考えると理解しやすいといわれています。 症状は多様で一人一人の差があります。知的障害や自閉症状に加えて運動症状が出現します。運動症状の代表的なものは不随意的で繰り返して出現する上肢の手もみ運動、運動失行、バランス障害、変形拘縮(側弯・尖足など)などがあげられます。 色々な運動症状に対応した理学療法が必要ですが、セラピストが不随意運動や運動失行の存在をしっかりと意識することは大切だと思います。 思ったり、感じたりしていても運動表出が限定されてしまう子どもとして考え、 比較的意思が表現しやすい目の表情や、一見意味なく思えてしまう行動の意味付け、好きなことをが多い音楽の利用などから本人の潜在能力をみつけるという意識で関わると大きな発見があるように感じます。また、変形の予防も大切な観点であるのでおろそかにしてはいけません。 日本レット症候群協会ホームページ の中のレット症候群患児のご両親へのという項目をクリックしていただけるとレット博士の講演要旨という文章がのっています。レット症候群を持つこどもに対する愛情深い文章です。私は臨床を行っていく上で非常に啓発されました。 こどもリハビリ相談  

脳性麻痺 赤ちゃん 視覚機能の発達

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  脳性麻痺をもった赤ちゃんを育てる時に目を使いやすい環境に配慮する場合があります。具体的にはリラックスして対象的な姿勢をとったり、赤ちゃんが手を使いやすくなる姿勢や抱っこの方法を助言します。玩具を見やすい提示の仕方や視覚的に興味をひきやすい玩具について伝えたりすることもあります。 何故でそういうことをするのでしょうか。 脳の視覚に関連する細胞は生まれた時にすでにできあがっています。しかし、それらの細胞同士をつなぐ神経ネットワークは生後半年位の期間に急激につくられていきます。その際には色々なものを見たり、見たものを手で触ったりする経験が重要だと言われています。 一方の脳性麻痺を持った赤ちゃんは筋肉のコントロールの問題をもっています。目を動かすのは眼球についている筋肉です。眼球は頭部についているので頸部筋肉も関係してきます。頸部の筋肉は体幹に続くので体幹の筋肉も関係してきます。脳性麻痺を持ったこどもの中には頭部の正中位固定や空間での保持に困難さがあったり、眼球の選択的な運動に困難さがあるこどもがいます。 そこで脳性麻痺を持ったこどもの目が十分使えているかどうか評価し、助言や環境調整をする必要性がでてきます。 又、脳性麻痺を持った赤ちゃんの視覚の発達を評価する際には視覚機能・眼球運動と姿勢や上肢機能を関連付けて評価すると良いと思います。「いつでも注視が可能というわけではなくても、この姿勢をとらせれば注視ができる」というように潜在能力を見つけだすことができるかもしれません。 こどもリハビリ相談

歩きはじめ

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  歩きはじめのこどもは上肢のハイガードや下肢のワイドベースがみられます。歩幅は小さく体軸内回旋もみられません。 歩行がうまくいくための条件として、前進条件、安定条件、環境適応条件の3つを考えることがあります。歩きはじめの歩行は習熟した歩行に比べると安定条件の保障により多くを割いた歩き方といえるかもしれません。 歩くのが上手になったこどもは上肢がミドルやローガードなり、足の間隔も少しせまくなってきます。体軸内回旋もみられ、一歩の歩幅も少し大きくなります。神経の感覚運動ネットワークが発達し、同時に筋力も高くなってきたたためと考えられます。 屋内歩行が安定してきたこどもでも靴を履かせて外にでてみると、また上肢のを高く挙上して足幅もひろくなります。環境面の変化により安定条件や環境条件がより高いレベルで必要になったからといことができます。こどもは屋内を歩く時よりも短時間で疲れてしまいます。 歩きはじめたこどもには外遊びは神経ネットワークや筋力への良い刺激になります。外へいけないときは、体操マットの上をあるいたり、スロープを歩いたりするのも良い刺激になります。

こどもの実行(遂行)機能

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  就学前のこどもの発達を考える上で、運動機能(粗大・微細)・言語社会機能の発達とともに実行(遂行)機能の発達を考えることは大変重要です。 実行(遂行)機能は物事を計画し、順序立てて実行する機能をいいます。成人の高次脳機能障害では前頭葉の機能障害の際に生じるとされています。 赤ちゃんの場合は前頭前野は生後7~8か月から機能しだすと言われています。この時期の赤ちゃんに対する有名な実験に「A not B」課題というものがあります。発達心理学者のピアジェが著書に記述しています。Aの容器に鈴をいれて遊ばせた後、赤ちゃんの見ている前で鈴をBの容器に移し替えた時、8ヵ月くらいの赤ちゃんは再びAの容器に手を伸ばすという実験です。この現象が起きる理由としてピアジェは物の永続性に対する理解が不十分なために起こると考えましたが、現在ではその説は余り支持されなくなってきているようです。Aに入っている記憶とBに入っている記憶の適切な選択が困難というワーキングメモリーの未熟さを原因とする説や、Aの容器で遊んだという前の記憶を抑制することができないという抑制機能の未熟さを原因とする説などをとる専門家が多くなってきているようです。 いずれにしても前頭葉(特に前頭前野)の活動が生後8ヵ月くらいから活発になること、その後も様々な経験と脳の成長の相互作用で実行機能が発達していくこと、実行機能の未熟さが運動や行動の障害になっているこどもが多くいることを知っておくことは重要と思います。 障害を持っている幼児で「ドアをみたらあける」「バギーをみたら乗って帰る」など自分の記憶している行動パターンを抑制できないで怒っているこどもを時々みかけます。記憶抑制ができない子どもの場合はドアやバギーを最初から見えないようにしておくことで過去の記憶を抑制することができます。そうすると難なく別の活動に向かえたりします。ただ単に記憶が抑制できないだけでなく、情緒的な不安を強く伴って泣いている子どもの場合は時間をかけてリラックスしてもらう必要があります。 こどもリハビリ相談

脳性麻痺スペクトラム

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  スペクトル(spectrum) の意味はデジタル大辞泉によると「 1 可視光および紫外線・赤外線などを分光器で分解して波長の順に並べたもの。 2 複雑な組成をもつものを成分に分解し、量や強度の順に規則的に並べたもの。」だそうです。 自閉症スペクトラムという診断は現在一般的に使用されるようになっていますが、Shevellは2018年に脳性麻痺という診断を脳性麻痺スペクトラムにしてはどうかという提言をしています。 1) 脳性麻痺の運動機能障害は麻痺のタイプや分布、粗大運動能力の分類によってかなり多様性があることはご存知のことと思います。 運動機能障害以外の合併症も多様です。比較的新しい脳性麻痺の定義である2005 年の Executive Committee for the Definition of Cerebral Palsy では、「 脳性麻痺は運動と姿勢の発達が障がいされた一群をさす。その障がいは,胎児もし くは乳児(生後 1 歳以下)の発達途上の脳において生じた非進行性の病変に起因する もので,活動の制限を生じさせる。脳性麻痺の運動機能障害には, しばしば感覚,認 知,コミュニケーション,知覚,行動の障がいが伴い,時には痙攣発作がともなうこ とがある。 」としていて運動機能障害以外に多くの合併症があることをわざわざ記載しています。 2) 脳性麻痺の原因についてはこれまでは出生前後の感染や、低酸素などが大部分とされていましたが、一部に遺伝子や染色体の構造変化による要因があることもわかってきました。 脳性麻痺は脳性麻痺スペクトラムという診断が提言されるほど多様な原因や状態像を示す診断です。この事を意識することで、より個々のニーズにあった支援の方法が選択されることにつながると良いと思います。 参考文献 1)Shevell M. Cerebral palsy to cerebral palsy spectrum disorder: time for a name change? Neurology 2018. [Epub ahead of print] 2)Bax M, Goldstein M, Rosenbaum P, et al.: Proposed definition and classification of cerebral palsy, Apri